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R&Dニュース

【新技術トピック】
植物繊維から生まれたリユースできる世界初のエコカップ
ビールがおいしく飲める「森のタンブラー」を開発!

2019.10.18

植物繊維から生まれたリユースできる世界初のエコカップ<br>ビールがおいしく飲める「森のタンブラー」を開発!

 10月4日~6日に茨城県つくば市で開催された「つくばクラフトビアフェスト2019」にて、アサヒビール(株)がパナソニック(株)と共同で開発したビール用カップ、「森のタンブラー」を3日間で約4,000個展開し、使い捨てプラスチックカップの使用を2万個程度削減しました。

 アサヒビールでは、プラスチックごみ削減のために、「森のタンブラー」を“マイタンブラー”として、イベント会場などで繰り返しお使いいただき、使用後はお持ち帰りいただくことを提案しています。本年より「森のタンブラー」をテスト展開し、使い捨てプラスチックごみの削減効果を検証しています。

 来場されたお客さまへ「森のタンブラー」の説明をすると、リユースできるアイデアや、デザインを気に入って購入してくださる方が多く、複数日に渡って持参される方もおられ、結果的に多くの使い捨てプラスチックカップの削減に繋がりました。
またメディアの注目度も非常に高く、当日は約十社のメディア取材があり、“容器を使い捨てることは当たり前ではない”というメッセージとともに、「森のタンブラー」を強くアピールすることができました。

(左、中央:フェスの様子、右:メディア取材に回答するアサヒビールの研究員)
(左、中央:フェスの様子、右:メディア取材に回答するアサヒビールの研究員)

社会課題として注目の集まる「プラスチックの使用」

 世界中のプラスチックの生産量は年々増加しており、適切に処理されなかったものやポイ捨てされたものの多くは海に流れ着きます。海に蓄積したプラスチックは、海洋生物だけでなく、生態系全体に甚大な被害をもたらすため、近年世界中の社会課題として注目が集まっています。
生産されるプラスチックのうち最も割合が大きいのは容器・包装用のもので、食品や飲料を製造販売するアサヒグループにとって、解決策を見出すことは非常に重要です。

 アサヒグループでは、本年「アサヒグループ環境ビジョン2050」を策定し、事業活動における環境負荷ゼロ(ニュートラル)を目指すとともに、独自技術を生かして新たな環境価値創出に取り組んでいます。様々な取り組みのうちのひとつとして、環境に優しく、またよりおいしくビールを楽しむことができる「森のタンブラー」を開発しました。

「森のタンブラー」開発のはじまり

 環境負荷低減をはじめ、社会課題解決の取り組みを企業として長く続けていくためには、事業活動の妨げになることなく、さらに事業の活性化につなげていくことが非常に重要です。開発担当者は、費用や技術開発の期間などを考慮しながら、実現可能かつ既存の事業により親和性のある形を模索し続けてきました。
その中でパナソニック社の素材「高濃度セルロースファイバー成形材料」の提案を受け、リユースできるカップに活用するアイデアを思いつきました。そしてわずか数か月で試作を完成させ、社内の提案会にて「森のタンブラー」として提案し、実際に共同開発に取り組むことになりました。

「高濃度セルロースファイバー成形材料」とは

高濃度セルロースファイバー成形材料

 「高濃度セルロースファイバー成形材料」(右図)は、間伐材などの木材から精製されたパルプが主な原料です。植物由来のセルロースファイバーを55%以上の濃度で樹脂に混ぜ込むことができ、プラスチックよりも強度が高く、耐熱性もあるため繰り返しの使用が可能です。

 

おいしくビールを飲めるタンブラー

 「森のタンブラー」は環境にやさしいだけでなく、ビールを注ぐと通常のプラスチックカップよりもキメの細かい泡ができ、ビールをさらにおいしく楽しめる、という点が大きな魅力です。アサヒビールのパッケージング技術研究所では、長年ビールの泡に関する研究に取り組み、キメが細かく長持ちする、いわゆるおいしい泡をつくる知見を豊富に持っていました。そのため開発担当者は、セルロースファイバーを用いることによって、ビールの泡を形成するために適した微細な凸凹をつくり出せるのではないか、と仮説をたてました。そして通常のプラスチックカップよりも情緒的価値があり、繰り返し使いたくなるような質感を生み出せる点も鑑み、素材の採用を決定したのです。

注いでから10分弱経過したビール(左:「森のタンブラー」、右:通常のプラスチックカップ)
注いでから10分弱経過したビール(左:「森のタンブラー」、右:通常のプラスチックカップ)

 「森のタンブラー」は、植物由来の素材が使用されていることがすぐに分かるような木目の風合い、手触り、そしてほのかな木の香りなども感じられるよう工夫されており、五感全てで楽しむことができます。

今後の展望

 開発担当者は、アイデアの発案やタンブラーの開発を担当するだけでなく、社会でどのように活用していただくか検討し、アサヒグループの既存流通外での普及活動にも取り組んでいます。「森のタンブラー」は素材の特性上印刷適性も高いため、イベントごとにマークなどをデザインしたタンブラーをつくることが可能です。そのため、今後さらに音楽フェスやスポーツ観戦、野外イベントなど、従来使い捨てプラスチックカップの使用が当たり前だったシーンでの活用を拡大し、国内で使われているプラスチックカップの使用量を減らしていきたい、と考えています。

 なお、「森のタンブラー」は、「2019日本パッケージングコンテスト」において、「飲料包装部門賞」に入賞しました。


<開発担当者のコメント>

アサヒビール(株)パッケージング技術研究所
古原 徹

「森のタンブラー」開発担当者

 「森のタンブラー」は環境に優しい「モノ」というだけでなく、使い捨てという所作自体を変えていきたいという想いで「コト」の開発を行いました。世の中の当たり前、を変えることは簡単ではないですが、イノベーションの役割だと感じています。同業種・異業種に関わらず、パートナーシップで広く推進していきます。
「森のタンブラー」は、開発キックオフから1年少々、サステイナブルでビールがおいしいエコカップとして、お客さまからも高い評価をいただいていますが、まだまだ完成形ではありません。今後も「コト」と「モノ」の進化は続きますので、ご期待ください!