お客様の「感じる気持ち」に寄り添って100年後も愛されるようなロングセラー商品を生み出したい。

アサヒ飲料株式会社
研究開発本部 研究開発戦略部 研究企画グループ
小杉 亘
- 大学時代は応用化学科で有機金属化学を専攻していました。お客様に最終商品をお届けできるメーカーに興味を持ち、アサヒ飲料株式会社に入社し、ものづくりの原点を学びました。容器包装研究所では、当時課題であったホット販売向けの「より密封性の高いPETボトルキャップ」や、「循環型社会の実現に向けた環境に配慮したバイオマス原料を使ったラベルやキャップシール」など、容器包装に関わる開発に携わってきました。
「感性」の可能性に気づかされた留学体験
私のキャリアの中で大きな転機となったのは、社内の海外留学制度を活用して米国・ミシガン州立大学に留学したことです。
ミシガン州立大学には「School of Packaging」という容器包装の専門コースが設置されています。留学先で、薬の誤飲を防ぐためのパッケージデザインや、お客様に手に取ってもらうためのデザインについて学びを深め、新鮮な刺激を受けました。
それまでの研究では、「酸素が通りにくい素材を開発して、飲料の新鮮さを保つ」「衝撃に強い」「開けやすい」など、おもに容器の物性的な面からのアプローチが中心でした。この留学を通じて、人間が認識していない「無意識」や「数値化が難しい経験から来る知識」などに焦点を当て、脳や心の動きから深層心理を探ってマーケティングに活用するという「感性マーケティング」の大切さにも気づけたことが、現在の仕事につながっています。

「リラックスする気分」や「爽やかな気分」を数値化する
帰国後は、「感性」を当社の商品開発に活かせないかと考え、お客様の一層の理解につながる感性に関わる研究への挑戦を始めました。
一般に、飲料の企画・開発プロセスにおいておいしさを調査する際には、官能評価などの手法が用いられます。評価対象となる飲料をユーザーに飲んでもらい、その印象をアンケートやインタビューによって聞き出すのです。しかし、ユーザーの主観に基づく実感評価は、ユーザー本人が明確に感じていること・意識していることを元に、調査する手法なので、無意識に感じていることや、その時、その瞬間に感じたことを明らかにすることは困難でした。
もっと客観的心理にせまる、ユーザーの感性を評価できる方法はないだろうか……そう考えていたときに出会った研究先の一つが、慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科・満倉靖恵(みつくら やすえ)准教授の研究でした。満倉准教授が、生体信号(脳波)の情報を詳細に解析し、気持ち(感性)を測定する研究に取り組んでいることを知ったのです。
さまざまな飲料を飲んだ時の「リラックスする気分」や「爽やかな気分」を数値化できれば、これまで以上に「お客様の気持ち(感性)」に寄り添った商品開発につなげられるのではないか……私は満倉先生の研究室に足しげく通いました。満倉先生が行われていた研究の活用の「場」と、当社の研究課題がうまく合致し、やがて共同研究がスタートしました。

炭酸飲料を飲んだ時の「爽快な気持ち」の数値化に成功!

共同研究では、最新の脳波測定技術を応用し、飲料を飲んだ時の“気持ち(感性)”の変化を調べました。最も困難を極めたのは、「感性を定義化する」という作業でした。ひと口に「爽やかな気分」と言っても、その状態は人によって異なります。私たちは何度も試行錯誤を重ね、感性の定義化を進めました。
そして2017年に、炭酸飲料を飲んだ時に感じる「爽快な“気持ち(感性)”」を脳波解析で数値化するモデルを構築することに成功しました。続いて、構築したモデルをもとに、当社の炭酸飲料を飲用したときの爽快な気持ちを調査した結果、飲用前と比べて飲用後は、より「爽快な“気持ち(感性)”」が持てるということを、実証できました。
現在、我々の研究では、脳波解析をはじめ、さまざまな感性評価手法を用いて、これまで数値化が困難であった、感性を科学的に明らかにすることに取り組んでいます。
「爽快な気持ち」の他にも、朝に缶コーヒー飲料を飲用した時の「やる気」や「前向きな気持ち」などについても数値化する試みを行っています。
日本の飲料市場では、年間約1000種類の新商品が投入されると言われています。そんな激しい競争の中で、お客様の気持ちに寄り添った商品を作り上げることで、50年、100年にわたって愛されるようなロングセラー商品を生み出したいと思っています。アサヒグループには、チャレンジを後押ししてくれる風土があります。今後もさらに研究を進め、お客様の感じる気持ちを深く理解し、その気持ちにこたえる商品開発ができる知見を積み上げ、グループ皆で使えるようにして行きたいですね。
(2017年8月17日取材)
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