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アサヒクオリティーアンドイノベーションズ(株) コアテクノロジー研究所長 中村 康則 アサヒクオリティーアンドイノベーションズ(株) コアテクノロジー研究所長 中村 康則

プロフィール

「食品で多くの人の健康に貢献したい」 その想いが、全て研究開発のスタートに

乳酸菌飲料「カルピス」の起源をご存知ですか?「カルピス」の生みの親・三島海雲が内モンゴルを旅している際に出会った、“酸乳”がきっかけです。体調を崩していた彼は、当地の遊牧民たちが飲んでいた酸乳のおかげで元気を取り戻し、「日本でも同じような食品を作り、人々の健康に貢献したい」と考えました。そうして生まれたのが日本初の乳酸菌飲料「カルピス」です。私はこのエピソードを知り「自分の手で健康に貢献できる製品を作りたい」と、1986年、当時のカルピス社に入社しました。


中村 康則
私が入社した当時にはすでに、カルピス社独自の発酵乳に動物の寿命を延ばす効果があることがマウスによる試験でわかっていましたが、なぜ発酵乳で寿命が延びるのか、そのメカニズムは明らかになっていませんでした。そこで、循環器や免疫など代表的な体の機能ごとの研究チームに分かれ、発酵乳のはたらきと関与成分についての研究が始まりました。その時に私が担当した研究テーマが、“血圧”です。当初は1人でのスタートでした。

発酵乳の中には、乳酸菌が乳を発酵させる過程で生み出した、様々な成分が含まれています。実験方法を変え、条件を変え、試行錯誤する中で、ついに血圧を正常に近づける効果のある2種類のペプチド(VPP、IPP)を特定したのです。この2つのペプチドを総称して「ラクトトリペプチド」と名付けました。乳酸菌発酵乳から関与成分を特定し、その効果をヒト試験で実証することができた、初めての機能性成分です。

世界の食品の概念・歴史を変えた 機能性食品の誕生

私たち食品メーカーの研究は、メカニズムの証明や成分の特定に止まらず、“どう製品化するか”が重要です。“飲むだけで手軽にできる高血圧予防の食習慣の提案”をコンセプトに、製品化に向けた模索が始まりました。機能性成分を特定できたとしても、その成分を効率よく作り出すことができなければ製品にすることはできませんし、研究室レベルで成功したとしても、工場での大量生産がうまくいくとは限りません。さらに、“人々の健康に貢献する”という目標を達成するためには、徹底して安心・安全を追究しなければなりません。


発売当時の「カルピス乳酸/アミールS」

この頃にはチームの人数も増え、「社史始まって以来の機能性食品の完成」との期待も高まっていました。その期待を一身に受け、必ず成功させるのだという覚悟で研究に挑む毎日。夜遅くまでサンプルを作り、製品化のために「ラクトトリペプチド」の素晴らしさを社内に説いて回る、激動の日々。それでも踏ん張れたのは、やはり入社当初の「自分の手で健康に貢献できる製品を作りたい」という想いを叶えたいという熱意があったからです。そして1997年に発売されたのが、「LTP(ラクトトリペプチド)」を配合した乳性飲料「アミールS」です。「アミールS」は、乳酸菌発酵乳由来の飲料として日本で初めて血圧ケアをターゲットとした特定保健用食品の表示許可を得て発売されました。ちょうどその頃、厚生省(現・厚生労働省)を中心に生活習慣に着目した疾病予防の考え方が提唱され始めた時期と相まって、スーパーで手軽に購入でき、おいしく血圧ケアができる飲料として、発売当時から大きな話題となりました。今では当たり前になりましたが、当時“食品で健康をサポートする”という特定保健用食品は業界でも注目度が高く、各社一斉に様々な研究が始まり、今では多くの機能性を持った食品が生まれています。「アミールS」は、まだ市場の形成がない特定保健用食品の血圧領域で先陣をきる製品になったと確信しています。


2003年には、食品から機能性ペプチドを見出し、そのメカニズムやヒトでの効果まで証明した一連の研究成果を評価していただき、「日本ビフィズス菌センター研究奨励賞」を受賞しました。このような名誉ある賞をいただけたことは、「自分の手で健康に貢献できる製品を作りたい」という目標を達成した一つの証であり、とても光栄なことだと感じております。

そして研究開発のフィールドは世界に、 各人の能力が開花するアサヒグループの研究開発環境

2012年、カルピス社はアサヒグループホールディングスの一員となりました。コアテクノロジーのひとつとして、酵母技術、腸内フローラ技術、素材技術に乳酸菌技術が並ぶこととなったのです。

世界を舞台に商品展開するアサヒグループに名を連ねることで、今まで以上に大きく視野が開けたと感じ、「これからは乳酸菌で世界の人々の健康に貢献できる、大きなチャレンジができる」とワクワクしています。活躍のフィールドが広がっただけではありません。これまで両者が培ってきた知見とノウハウ、経験の蓄積を活かし、それぞれのコアテクノロジーの垣根を越えてリンクすることで、大きな相乗効果が生まれると考えています。

両者の研究開発に取り組む姿勢の違いもまた興味深く、刺激のあるものでした。じっくりと自社で深掘りして研究を進めるカルピスに対し、様々なリソースを積極的に採り入れてスピード感をもってイノベーションしていくアサヒグループ。正反対に見えますが、お互いが協力することで、多様な効果を持った製品を、時代のニーズに合わせて自信を持って投入できると考えています。

そのために大切なのが、研究開発の環境と、そこに従事する人材の育成です。研究開発は今後のアサヒグループの将来を担う上で不可欠。設備・機器に関しては潤沢に予算が組まれています。また、研究開発の組織はチームワークを大切にする風土で、人材を育てる土壌は両社共にできています。私が所長になってからは、会議の場を始め、飲み会や普段の何気ない会話の中でも、所員たちに「将来的に個人のノウハウ、能力を上げることが大切になる。自分が努力することはもちろん、部下・後輩たちの声に耳を傾け、意見をすくい上げ、活躍の場を作っていこう」と話しています。そうすることで、意識的に研究領域の垣根を越え、お互いに意見を交わし合い、力と歴史を合わせ、一人ひとりが能力を発揮して研究を行える環境を作ろうとしています。

無限の可能性を秘めた乳酸菌で 人類の持つ健康への希望を叶えたい

もちろん、「個人のノウハウ、能力を上げよう」と口でいうのは簡単です。大切なのは“熱意”“想い”“覚悟”です。

これは先ほどお話しをした「ラクトトリペプチド」の研究の際に、私自身が感じたことです。地道な研究活動は、必ずしも報われるとは限りません。何年かけても、予測した実験結果が出ないこともある。いい結果が出ても、製品として成立しないこともある。


それでも「自分の研究が世界の人々の健康に貢献するのだ」「これが製品化されれば、食品の歴史が変わるのだ」といった熱意や想い、そして「絶対に成功させる」という覚悟があれば、先の見えないチャレンジングな実験に向かっていく力が湧いてくるのです。

乳酸菌は、無限の可能性を秘めています。「こんな食品があればいいな」「食べることで、体のこんな機能が改善されればいいのにな」という人間の希望は、乳酸菌のチカラを活用することでほぼ全てを実現できる。そう信じています。そして、それを実現させるのは、アサヒグループの研究開発が礎となることを願っています。

私たちの製品、そして研究開発にぜひ期待していただきたい。私たちは全力でその期待に、熱意と想いと覚悟で応えたいと思っています。

(2016年12月26日公開。取材当時 アサヒグループホールディングス(株)コアテクノロジー研究所長)

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