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「アサヒスーパードライ」が世界中で飲まれている理由ワケ

ビールは世界中の人々に愛されている
ビールは世界中の人々に愛されている

「アサヒスーパードライ」ときくと、メタリックシルバーの缶や「辛口」「キレ」などの特徴を即座に連想される方が多いのではないでしょうか。それだけ私たちになじみのあるこのビールが、世に誕生したのは約30年前。1987年に発売されると、「キレ」がありすっきりした味が瞬く間に評判をよび「ドライビール」のブームを生みだしました。 現在は、国内はもちろん、海外においても絶大な人気を誇っていますが、なぜこれだけの評価を得ているのでしょうか。私、フードライターの中山秀明がその秘密に迫りました。

中山秀明

著者プロフィール

中山秀明

お酒や内食・外食のトレンドに精通した、食の専門家。様々な媒体でグルメをはじめとするインタビュー記事や体験レポートを寄稿。そのほか、テレビや大手企業サイトのコメンテーターを務めるなど幅広く活躍。

愛され続ける「さらりとした飲み口、キレ味さえる辛口の生ビール」

「アサヒスーパードライ」の人気の理由は、やはり「キレがありすっきりしており、何杯でも飲める味」だからでしょう。「アサヒスーパードライ」が誕生する前は、苦味が強く重たい味のビールが主流でした。その中で、キレ味を強調した辛口の生ビール「アサヒスーパードライ」が誕生。どんな料理にも合い何杯でも飲める味が評判を呼び、瞬く間にお客様の支持を集めました。まさに、アサヒグループが「辛口」という新しい概念を生み出したのです。

「アサヒスーパードライ」はどうしてキレ味が際立っているのでしょうか? その理由に迫る前に、ビールのつくり方について確認しておきましょう。

ビールの主な原料は、麦芽とホップと水。製造工程は大きく①仕込み ②発酵・熟成 ③ろ過・容器詰めに分けられます。
まずは「仕込み」。麦芽(大麦を発芽させたもの)を乾燥させて砕いたものにお湯を加えます。そうすると、麦芽のでんぷんが、麦芽の酵素の働きで分解されて糖に変わり、麦の甘い汁「麦汁」がつくられます。そして麦の殻などを除くために麦汁をろ過し、ホップを投入して煮沸すると、ビールらしい苦味と色がつくられます。
続いて「発酵・熟成」工程。麦汁にビール酵母を加えて約1週間かけて発酵させます。この間に酵母の働きによりアルコールや炭酸ガス、数百種類もの香味成分が生み出されます。その後低温で数十日間熟成させたのち、ろ過をしてビールが完成。容器に詰められ私たちは手に取ることができるのです。

 

「アサヒスーパードライ」の魅力、「キレ」の秘密

「アサヒスーパードライ」最大の魅力である「キレ」はどのようにして生み出されているのでしょうか?アサヒグループの研究員はこのように語っています。

「『アサヒスーパードライ』のキレは、発酵時における『酵母』が鍵を握っています。酵母の種類や発酵条件によって、ビールの味わいは大きく変わります。まさに『酵母』はビールづくりの要なのです。『アサヒスーパードライ』で使っている『318号酵母』は、勢いよく糖からアルコールと炭酸ガスを生み出す能力に長けた、キレづくりのスペシャリストというべき酵母です。だからこそすっきりして雑味が残らないおいしさをつくりだしているのです。この『318号酵母』はアサヒグループが保有する数百種類にもおよぶ酵母バンクの中から、キレのあるビールづくりに優れた酵母として選ばれ、実に30年以上にわたり『アサヒスーパードライ』の製造を支えています。

「318号酵母」。高い発酵能力を持ち、ビールにキレを生み出す特徴を持つ
「318号酵母」。高い発酵能力を持ち、ビールにキレを生み出す特徴を持つ

また、キレづくりには、優れた酵母そのものの能力だけでなく、その働きを最大限に引き出す技術も重要です。酵母はわずか0.1℃の温度の違いでも活動量が変わるため、工場では酵母の発酵状態を見守りながら製造しなければなりません。私たちは24時間にわたり酵母の様子を観察し、酵母の働きが少しでも悪くなったときには、その原因を見極め、発酵条件を細かく調整しています。常に酵母が働きやすい環境を整えることで、おいしさと一定の品質を保っているのです。」(アサヒグループ研究員)

なぜ、アサヒグループはどこでも同じ味と品質のビールをつくれるのか

世界中で飲まれている「アサヒスーパードライ」。商品を広く展開するには世界の各地に醸造所が必要ですが、大麦やホップといった農作物、気候や水質、製造工場の設備や従業員の習熟度など様々な条件が異なるため、どこでも同じ味と品質のビールをつくるのは非常に困難です。ではなぜ実現出来るのか、研究開発と生産現場の両方を知り尽くし、高品質なビールの生産技術の確立に長年貢献してきたアサヒビール社伊藤義訓取締役は語ります。

「私たちは高品質なビールの生産に向けて大きく2つの改革を行いました。一つは現場改革、もう一つは組織改革です。まず現場改革について紹介します。多くのものづくりの現場では、徹底的にマニュアルをつくり、何か問題がある場合はそのマニュアルを一つ一つ改善して行くという方法がとられます。しかし、私たちが目指したのはさらに上のレベルでした。ビールの原料は農作物であり、酵母の状態も日々変化します。そのためマニュアルだけではなく、状況に応じて現場の人たちの裁量を尊重し、ビールづくりの製造工程の条件を、現場の判断でマニュアルからある一定の範囲内で変えられるようにしたのです。」(伊藤取締役)

伊藤義訓取締役 高品質なビールの生産技術の確立に力を注いできた
伊藤義訓取締役 高品質なビールの生産技術の確立に力を注いできた

現場が裁量を持つということは、現場の人間が正しく判断できることが重要。そのためには、発酵や背景理論の知識が必要です。それらを現場のオペレーターにわかりやすく伝えるため、生産部門の技術者は一層勉強するようになり、その技術者たちに学ぶ現場の人たちもどんどん優秀になる、という好循環が生まれたのだとか。聞けば、全ての工場で最高品質を実現するため、300項目以上のチェックポイントをつくるとともに、オペレーターの裁量を拡大した「セルフ分析」を導入し、製造条件を細かく調整しているとのこと。また国内では、毎月1回全ての工場のオペレーターが集まり議論をし、各工場で起こった課題と解決策を共有して、さらにより良い製品づくりにつなげているそうです。

伊藤取締役は現場改革に続き、組織改革についても語ります。

「ものづくりの現場では、ときには組織の在り方を見直し、改革することも大切です。当社では、研究所からも工場からも独立した、全社に横串をさせる組織として生産技術センターを整えました。研究所は、優れた分析力で、どんなプロセスを経るとその分析値が出るのかメカニズムを解明し、分析値の指標化を行います。そのメカニズムと目標値に基づいて、現場が着目すべきコントロールポイントを生産技術センターが提案します。そして生産部門が、コントロールポイントの最適値を探り、それを実際に工場で実行するのです。このように、研究所、生産技術センター、生産部門の役割を明確に定義することで、三部門が三位一体となってビールの品質向上に取り組んでいます。これはアサヒビール独自の強みであり、世の中にそのような生産を行なっている会社はほかにないでしょう」(伊藤取締役)

醸造管理技術に長け、さらに高品質なものづくりに挑戦しつづけるアサヒグループ。ものづくり現場の改革、そして大胆な組織改革が品質向上につながったようです。なぜ「アサヒスーパードライ」の本質的な価値を届けられるのか、その理由が分かりました。

次に微生物管理技術について触れていきましょう。現在国内で生産されるビールのほとんどは生ビール、つまり加熱殺菌していないビールです。そのためビールづくりは、微生物との闘いといえるかもしれません。

ビールの味や香りを変質させる微生物は「ビール混濁性微生物」と呼ばれており、その代表的な菌が乳酸菌。乳酸菌はヨーグルトをつくるなど人間に有用な菌として知られていますが、中にはビールのおいしさを損なう菌種も存在しています。長年「ビール混濁性微生物」の検出技術の開発に取り組んできたアサヒグループの研究員に話を聞きました。

「ビール製造会社では、ビールの味を変質させてしまうビール混濁性微生物をいかに素早く見つけ、工場から排除して製品への混入を撲滅するか、という課題に向き合っていました。しかし、ビール混濁性微生物は従来の検査方法では検出しにくく、さらに未知の微生物も出現する場合があるため、検出や分析方法を確立するのが困難とされてきました。そのような中、アサヒグループでは20年以上も研究を重ね、ついにビールを変質させる微生物の新たな検出方法の開発に成功しました。これにより、従来約3か月間かかっていた微生物汚染に関する検査期間を、わずか数時間にまで短縮させるなど、世界のビール業界全体に革命を巻き起こしたのです。これらの研究開発成果を広く世の中に伝えることで、世界の生ビール製造品質の安定にも貢献しています。」(アサヒグループ研究員)

3か月の検査期間がたった数時間にまで短縮とは!世界のビール業界関係者の驚きと感謝の声が想像できそうです。この研究成果は国内外で幅広く評価され、2018年、アサヒグループの「生ビール製造における微生物品質保証技術」は、「平成30年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞 開発部門」を受賞しています。

高い醸造技術と品質管理技術を磨き、品質のよい生ビールをお客様に届けている
高い醸造技術と品質管理技術を磨き、品質のよい生ビールをお客様に届けている

世界が認めた「アサヒスーパードライ」の魅力とその展望

最高の品質を保つには、安全で高品質な原料を安定して調達することも欠かせません。アサヒビール社では、品質・コスト・供給力などの面からサプライヤーを選定し、安定した確保のために、輸入麦芽のサプライヤーとの長期契約を導入していました。また、アサヒビール社では原料の多くを輸入していることから、自然災害や気候変動などが原因で作物が不足し、原料を確保できなくなるリスクを回避する目的で、農作物の産地分散を図っています。そして安全な原料供給のために、サプライヤーへの使用農薬リストや農薬散布記録などの情報確認、また品質確保のためサプライヤーの原料・資材工場の品質監査を実施しているとのこと。それ以外にもサプライヤーと様々な取り組みを行い、ホームページ上で開示しています。私はそれら取り組みを通して、消費者の安心へつながるよう努めているのを感じました。

さて、ここまでアサヒグループの醸造技術や品質管理技術を紹介してきましたが、海外への広がりも見てみましょう。

「アサヒスーパードライ」は現在、海外の約70か国で販売され、韓国・オセアニア・中国を中心に販売数量は拡大して2017年には初めて1000万箱を突破しています。さらに欧州におけるプレミアムブランドとしての存在感を高める取り組みを強化しているようです。ちなみに欧州は生ではなく加熱処理したビールが主流ですが、アサヒグループは殺菌しなくてもおいしさを保つ高度な品質管理技術を有しているため、生ビールを展開できるのでしょう。

欧州をはじめ、イタリア、中国、マレーシアなどグル―プ会社や提携先企業の工場で生み出される「アサヒスーパードライ」の品質は、もちろん日本と同じ。同じ品質のものをつくれるよう技術指導を行い、試験醸造を繰り返し「アサヒスーパードライ」の生産を実現させています。これは、日本の各部門担当者がこれまで培ってきた高度な醸造技術や品質管理技術が、海外でも活かされていることの現れです。

「ブリュッセルビアチャレンジ2015」でゴールドメダルを日本初受賞
「ブリュッセルビアチャレンジ2015」でゴールドメダルを日本初受賞

洗練されたクリアな爽快感、キレのある辛口。「アサヒスーパードライ」のおいしさは世界でも認められ、海外での売り上げは顕著に伸びています。ベルギーの国際的なビールコンテストである「ブリュッセルビアチャレンジ2015」において、日本のビールメーカーとして初めてゴールドメダルを獲得するなど、世界的な品評会での栄冠も注目を集めています。その評価を支えているのは、アサヒグループが持つ世界屈指の醸造技術と、品質管理なのでしょう。世界No.1のプレミアムビールへ。これからさらに「アサヒスーパードライ」のおいしさは世界中に広がり、愛されていくのでしょう。(記事制作:2018年12月)

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