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思わず笑顔になるような 「うまい!」ビールづくりを目指して

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アサヒビール株式会社
研究開発本部 酒類開発研究所
大室 繭

「もともとビールを飲むのが大好きでした!」と笑顔を見せる大室は、学生時代、生命工学科で遺伝子工学を用いた再生医療に関する研究をしていた。しかし、ビール好きが高じて、ビールづくりに欠かせない酵母の研究がしたいという想いから、研究する分野が異なるアサヒビール株式会社への入社を決意する。入社後は「ビール酵母」を遺伝子レベルで解析し、アサヒビールの主力商品「スーパードライ」の「キレ」の秘密に迫った。現在は、これまで積み上げてきた知見を活かして、ビールの美味しさと魅力を多くのお客様に届けるため、今までにない新しい価値を持ったビールの開発にチャレンジしている。

ビールの「キレ」の秘密を遺伝子解析技術で解き明かす

大室 繭

「アサヒでは、お客様に最高の“うまい”を届けるため、ビールの「キレ」を大切にしています。」
人一倍にビールへのこだわりを持った大室のインタビューは、この一言から始まった。
ビールの主な原料は麦芽、ホップ、水である。たったこれだけの原料からアルコールと炭酸を生み出し、ビールの味や香りをつくっているのが「ビール酵母」だ。「ビール酵母」とは、まさにビールの味を左右する核となるもの。大室が入社後に酒類技術研究所で携わった研究が、ビールの「キレ」を探求するというものだった。
「そもそも『キレ』があるビールとは、口に入れたときの味と香りに落差があって、突出した風味が口の中に残らないビールのことを指します。日本では、どんな料理にも合うすっきりキレのある味わいの辛口ビールが好まれています。ビールの『キレ』は、ビールの中の糖の残存量が大きく影響しているので『ビール酵母』の働きがとても重要なのです。」
今から30年前、アサヒグループの保有している酵母ライブラリーの中から、とくに「キレ」を作り出す能力に優れている酵母として選ばれたのが「318号酵母」である。「スーパードライ」発売当時から変わらぬ美味しさをつくり続けている、まさにアサヒグループの宝だ。大室は、なぜ「318号酵母」が高いキレを生み出すのか、最先端の遺伝子解析技術を駆使し、その謎の一端を明らかにした。
「『318号酵母』は、エサとなる糖をみつける遺伝子、糖をアルコールに変換する酵素の遺伝子、そして増殖遺伝子、それらが他の酵母と比べ多いことがわかりました。これらの遺伝子の違いが、あのキレのある味を生み出していたのです。」
大室はこの研究成果を、世界的に権威のある国際ビール学会「EUROPEAN BREWERY CONVENTION 2017」で発表し、ビール研究のリーディングカンパニーとして、世界にアサヒビールの名をとどろかせた。ビールを愛するがゆえに、なぜ“うまい”と感じるのか、その秘密を解き明かしたいという想いが、確かな成果を生んだのだ。

研究から開発へ新たなやりがいを発見

大室 繭

「酵母研究に没頭していた頃は、声を発しない酵母と対話をしながら、いかに元気な状態で育み、醸造の世界に送り出すのか。まるで母親のような気持ちで酵母と接していましたね。ビールづくりの核となる大切なものを扱っているという責任感や、世界から称賛される最先端の研究に携わっているプライドもありました。」
当時のことをこう振り返る大室は、現在は研究の場を離れ、酒類開発研究所でビール類の商品開発に携わっている。大室の仕事の領域は、「キレ」を生み出す秘密を解き明かす研究から、“うまい”をつくるためのビール開発へさらなる広がりを見せた。
「開発は、技術研究所が持つ知見を活かしながら味をつくり込んで商品にしていく仕事なので、実際にビールを飲んでいただくお客様の声も届きやすく、とてもやりがいがあります。」
一方で、長いスパンで進める研究とは違い、開発の現場は仕事のサイクルが早く、月に数十から数百もの新しいアイデアが要求されることもある。
「常に新しいアイデアが求められますが、女性ならではの視点の提案も期待されていると実感しています。アイデアに行き詰った時には街に繰り出し、スーパーなどで売り場の商品並びを見てヒントを探すこともあります。私は、7月に着任したばかりで、まだ商品を世に出した経験はありませんが、将来、自分の開発したビールがお客様の手に届き、“うまい”と言って飲んで下さる姿を想像すれば、大変な業務もわくわくしながら取り組めます。」

今までにない新しい価値を持つビールを開発し多くのお客様に「うまい」を届けたい!

研究の現場から商品開発に転身した大室は、ビールの奥深さをこう語る。
「このグラスに注がれた1杯のビールには、たくさんの技術が詰まっています。酵母や原料の選定、醸造技術、香味成分の解析技術、官能評価の技術など、すべての技術が合わさって、初めて“うまい”と言われるビールが出来上がります。出来上がったビールは私にとって、これから独り立ちするわが子をみているかのようで、とても愛おしく感じますね。」
誰よりもビールを愛し、「ビール酵母」の特性を知り尽くした大室だからこそ、今までにない新しい価値を持つビールが生み出せることだろう。
大室はインタビューの最後に目をキラキラ輝かせながらこう言葉を残した。
「思わず笑顔になるような“うまい”ビールを開発し、『スーパードライ』のように長く愛され続ける商品を育て、多くのお客様に“うまい”を届けていきたいです。」
(2017年9月28日取材)

大室 繭