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容器もおいしさの一要素。 お客様に五感で楽しんでいただける商品を提供したい。

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アサヒ飲料株式会社 ※
技術研究所
古原 徹

学生時代は、パソコンやスマートフォン等の故障の原因となる極微細配線でおこる金属原子の移動メカニズムの解明や評価方法の確立、さらには極微細材料の加工と他分野へ応用するマイクロ・ナノテクノロジーの研究に取り組みました。理論や方法論が確立されておらず、一から実験手法を考え検証を繰り返す姿勢を学ぶことができました。 就職活動では、多くの同級生が精密加工を行う製造メーカーの設計部門へ進む中、自分が開発した製品をお客様が直接手に取って楽しんでいただけることに魅力を感じ、アサヒビール株式会社にエンジニア系(技術職)として入社しました。

ペットボトルを芸術の域へ

   入社当時、私は容器包装の開発部門に配属され、環境にやさしい容器包装の開発を目指して様々な業務に携わり、ペットボトルの容量やデザインのバリエーションを広げるための新規設計開発を行ってきました。「ものづくり」に関わりながら、研究開発を進める上での考え方、そして製造に携わる人々と共に働くことの大切さを経験できました。

古原 徹

日々の課題に取り組む傍ら、新たな容器づくりのアイデア出しも積極的に行っていました。学生時代にナノテクノロジーに携わっていた経験から、「細部」にこだわることが良いモノづくりに繋がるという感覚があり、特にガラス製品の繊細なカットや美しい表面処理に興味がありました。これまでペットボトルは「飲んだらゴミ箱へ」といった物でした。しかし、同じ透明容器でも繊細で美しいカットを施したガラスは芸術品にもなります。私は「ペットボトルを芸術の域にできないか」という夢を抱き始めました。
  自分の目を養いつつ情報収集を行う為に、週末や旅行先ではガラス細工の美術館や展示会に通うようになりました。そこで目を奪われたのが「江戸切子」です。「江戸切子」のような繊細なデザインで、ペットボトルを「目で楽しみながら飲む"うつわ"」にしたい。夢に向けて目標が明確になった瞬間でした。

「江戸切子」デザインのペットボトル開発への挑戦

 そしてついに、そのチャンスがやってきました。2015年の「六条麦茶」のリニューアルに併せて、新容器の開発を担当することになったのです。
  麦茶は江戸の庶民の味として親しまれていた飲み物で、「江戸切子」との親和性は申し分ありません。早速、マーケティング部にコンセプトを提案し、議論を重ねた末に、日本に17人しかいない「江戸切子」の伝統工芸士の一人である、三代秀石・堀口徹氏に監修を依頼し、快く引き受けていただきました。

古原 徹 古原 徹

 しかし、堀口氏から提案されたデザインは私の想像をはるかに超える緻密さで、ペットボトルで再現できるのか正直不安でした。
   軽量のペットボトルとして強度を保ちつつ、職人の手仕事を感じられるデザインを実現するため、最新技術を搭載した3Dプリンターを導入し、ガラスの質感やエッジ感の再現には、国内のペットボトル成形用金型メーカーにも協力を仰ぎました。

 また、アサヒ飲料が世界で初めて導入した、量産と同じレベルで成形できるペットボトル試作成形機を用いて検証を重ね、試行錯誤の末にようやく商品化の可能性が見出せた時には一安心しました。 多くの苦労を乗り越え完成した「うつわ」で、新しい「六条麦茶」が製造されて行く姿を見た時には、言葉にできない喜びで一杯になりました。

容器はまだまだ進化できる。これまでにない「うつわ」づくりに挑戦していきます。

 この「江戸切子」デザインを施したペットボトルの「六条麦茶」は、「グッドデザイン賞」をはじめとした多くの賞を受賞する事ができました。
  この結果は、デザインを監修してくださった堀口氏をはじめ、マーケティング部や工場、パートナー企業といった多くの仲間たちが「お客様のために良いものを作ろう」という同じ想いで諦めずに努力を重ねた結果だと感じています。
  容器包装の世界は、アイデア次第でまだまだ進化できます。「味覚だけでなく、視覚・触覚・聴覚・嗅覚といった『五感』で楽しめる」そんな商品を開発し、お客様に喜んでいただけるように、これからも挑戦していきます。

古原 徹

取材日 2017.2.21
※所属会社・部署は取材当時のものです。