Report27
【動画あり】乳酸菌が小腸のM細胞から取り込まれ免疫細胞に渡される様子の撮影に世界で初めて※成功

腸は食べ物とともに入ってくる様々な病原菌やウイルスに絶えず曝(さら)されており、これらから身を守るために、“腸管免疫”という仕組みが備わっています。
絨(じゅう)毛がびっしりと並ぶ小腸の壁のところどころに絨毛のない丘状の場所があり、これが、腸管免疫の舞台となるパイエル板とよばれる免疫組織です。パイエル板には多くの免疫細胞が集まっており、パイエル板を覆う腸管上皮にある抗原の取り込み口(M細胞)から、病原菌などを捉えます。そして、樹状細胞*1によって取り込まれ、リンパ球*2に菌の情報が伝えられます。情報を受けて活性化したリンパ球は、血液やリンパ液の流れに乗って全身を循環することで、全身で病原菌を排除する体制を整えます。
*1 樹状細胞:免疫細胞の1つで、病原菌などの異物を取り込んで殺すとともに、その情報をリンパ球に伝える働きがあります。
*2 リンパ球:免疫細胞の1つで、病原菌に感染した細胞を殺したり、病原菌に結合して無力化させる抗体をつくるなどの働きがあります。
腸管免疫のシステムはとても発達しており、私たちの体に害を与えない非病原菌を、積極的に排除しようとはしません。乳酸菌もその一つですが、ある種の乳酸菌においては、排除されないばかりか、乳酸菌が腸管免疫に働きかけることで、生体の病原菌に対する免疫力を高めたり、アレルギーの原因となる免疫バランスの乱れを改善する可能性があることが分かってきています。
乳酸菌が腸管免疫に働きかけるメカニズムの一つとして、病原菌と同様にM細胞から取り込まれ免疫細胞に渡されることが仮説としては提唱されていましたが、これまで、実証されていませんでした。今回、免疫に働きかけることを特徴とするアサヒグループ保有の乳酸菌「ラクトバチルス・アシドフィルス L-92株」を用いて実験を行い、乳酸菌がM細胞から取り込まれて免疫細胞(樹状細胞)に渡されることを世界で初めて実証しました。
「ラクトバチルス・アシドフィルス L-92株」は菌体表面に「SlpA」と呼ばれるタンパク質をもっていることが明らかになっています。「SlpA」とM細胞からの取り込みの関連を調べるために、「SlpA」をもっている「ラクトバチルス・アシドフィルス L-92株」と、「SlpA」をほとんどもたない乳酸菌でM細胞からの取り込まれやすさを比較しました。その結果、「ラクトバチルス・アシドフィルス L-92株」の方が、M細胞から多く取り込まれる傾向があることがわかりました。このことから、「SlpA」が乳酸菌のM細胞からの取り込みの促進に関与していることがわかりました。
また、これまでの研究から、殺菌した乳酸菌(死菌)でも、「SlpA」が保持されていることがわかっており、このメカニズムを介して免疫にはたらきかける乳酸菌は、生菌・死菌に関わらずその機能を発揮する可能性があることも示されました。
~新たな治療、予防法への応用に期待~
M細胞からの取り込みを促す“鍵”の発見により、多くの種類の乳酸菌の中から免疫に働きかける能力に優れた乳酸菌を選抜しやすくなる、また、薬を運ぶキャリアとしてこの“鍵”を利用することで、効率的に免疫細胞に働きかける新薬の開発につながるなど、免疫に関わる様々な病気の予防や治療に向けて幅広い研究領域への応用が期待できます。今後も、乳酸菌と免疫に関する様々な研究に取り組んでまいります。
■「ラクトバチルス・アシドフィルス L-92株」について
https://rd.asahigroup-holdings.com/research/region/material/l92.html
■アサヒエクスプレス “ママさん研究者”が乳酸菌学会で優秀発表賞を受賞!
https://www.asahigroup-holdings.com/express/detail/feature-161109.html