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入社6年目、缶コーヒー開発一筋、 誰もがハッピーになれるような飲料をつくりたい!

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アサヒ飲料株式会社
商品開発研究所 商品開発第二グループ
コーヒー・バラエティー飲料開発チーム
万代 文子

大学院時代は、工学研究科生命先端工学を専攻し植物の研究を行っていた。具体的には、バイオ燃料の原料となるジャトロファという植物を、他の植物が生育できない乾燥地域でも成長できるようにするための研究だ。学生時代からの「研究を通じて、世の中の役に立つ仕事をしたい……」という思いと情熱は、いま、新時代の缶コーヒーづくりに注がれている。

缶コーヒーを飲む人の気持ちが分からない!

「この仕事、私に務まるんだろうか?」
2013年、アサヒ飲料に入社し、缶コーヒーの商品開発を行う部門に配属が決まったとき、万代はそう思ったという。
「生まれてからこのときまで、ほとんど缶コーヒーを飲んだことがありませんでした。それどころか、日々の生活では缶コーヒーの存在を意識することすらなかったんです」
そんな万代が初めて担当することになったのは、自動販売機向けの商品だった。自動販売機の缶コーヒー購入者は、男性のヘビーユーザーで、味や香りに長年のこだわりを持つ人が多い。しかし、缶コーヒーに興味を抱いたことが全くなかった万代にとって、ユーザーが缶コーヒーに何を求めているのかをイメージすることさえできなかった。
そこで万代は、先輩からの勧めもあって、ある“課題”を自らに課した。
「コンビニの缶コーヒー売場で、一番上の段から横1列分の商品をすべて購入して飲み比べ、翌日は上から2段目に並んでいる商品、その翌日は3段目…というように毎日何種類ものコーヒーを飲み比べることにしました。そして、その商品がどんなコンセプトを打ち出しているか? そのコンセプトを、どんな味で実現しようとしているか?自分が飲んでみて感じた味や香りといった特徴をノートに書き込んでいきました」
この習慣は、入社6年目を迎えた現在も続いている。他社の新製品が発売されるといち早く購入し、味の分析を行うのだ。

万代文子 万代文子

缶コーヒーの新商品開発は、マーケティング部門からあがってくる新商品企画に応えて行われるケースが多い。その企画書では、例えば「仕事がひと区切りついた後、公園で飲みたくなるコーヒー」というような表現で伝えられる。こうした要望を、具体的なレシピに落とし込んでいくのが、飲料開発チームのミッションだ。

缶コーヒーの味を決める要素は、使用するコーヒー豆の産地・品種、豆を焙煎する際の熱量・時間、ブレンドする比率、抽出方法、牛乳や砂糖の量などさまざま。それぞれの要素を調整しながら、マーケティング部門が想定した“市場が求める味”を追求していく。
「入社する以前は、私にとって缶コーヒーは単なる“缶コーヒー”でしかありませんでした(笑)。でも、このレシピ研究を始めてから、持ち前の好奇心・探求心に火がついた気がします。今では、市場に出ているすべての缶コーヒーを、ブラインドテストによって、これは○○社の○○という製品、と言い当てることができます」
きっぱりと語る万代の表情は、ひとつのことを一途に続けてきた者だけが持つ自信にあふれていた。

人々の日常に寄り添い、人を笑顔にできる仕事なんだ!

入社3年目、缶コーヒー開発の仕事にもすっかり慣れてきた頃、仕事へのモチベーションを刺激する、いくつかの体験があった。
そのひとつが、ブラジルのコーヒー農園視察。2週間の日程で現地の生産者を訪ねたことだ。真っ赤に実ったコーヒーの実をていねいに摘み取ったら、皮や果肉を取り除き、乾燥・脱穀を経てコーヒーの生豆を取り出す……。一連の工程について生産者の説明を受けながら見学していると、植物の研究に没頭していた大学院時代の記憶がよみがえってきた。

万代文子

「コーヒー豆も“農作物”なんだということに、いまさらのように気づかされました。コーヒーの木は、植えてから本格的に収穫できるまで3年~5年ほどかかります。実際に自分の目で生産現場を見ることで、あらためて産地の皆さんのたゆまぬ努力と確かな仕事があって、私たちの仕事が成り立っているのだと感じました。今では、コーヒーが出来上がるまでに携わる、すべての人の想いに、より美味しいコーヒーを作り上げることで応えていかなければならないと考えています。さらに、今回の視察を通じ、コーヒーの美味しさを追求していくなかで、“学生時代の植物研究の経験を活かして、コーヒーの品種改良という新たなアプローチもできるのではないか?”などと上流工程のことを考えるきっかけにもなりました」

万代文子

もうひとつは、仕事の本質に気づかされる体験だ。
ある日、万代は、目標とする味がなかなか作れず、意気消沈したまま帰りの電車に乗り込んだ。しばらく電車に揺られていると、隣に座っていた年配の女性に、不意に声をかけられた。
「あなた、コーヒーのとってもいい香りがするわね!」
その女性の笑顔を見て、ハッとした。
「そのとき、私の精神状態は最低レベルでした。でも、その香りは私の心持ちとは関係なく、その女性をハッピーな気持ちにしていたんです。人々の日常に寄り添う商品をつくっている自分は、人を幸せに、楽しい気持ちにできるすばらしい仕事に携わっているんだ。そのことを実感して、前向きな気持ちになれたことを覚えています」

缶コーヒーの“新たな魅力”をつくり、伝えていくのが使命

入社から一途に、缶コーヒーの味づくりに励んできた万代だが、まだ「コーヒーに関してやってみたいことはたくさんある」と語る。また一方では、コーヒー以外の商品開発を経験することで、これまでとは異なる視点を得て、缶コーヒー開発に活かしたいという思いもある。
2017年、そんな万代にとって新たな刺激となる開発案件が巡ってきた。それが、2017年10月に発売された「ワンダ シェイクゼリーコーヒー」。この商品は、添付のミルクパウダーを加えたり、好みの食感になるまでボトルをシェイクするなど、自分で味や食感を変化させて楽しむ体験型のコーヒーゼリー飲料。これまでにない、まったく新しいタイプの商品だ。

万代文子 万代文子

ターゲットは、カフェメニューに親しんでいて、かつコンビニでもコーヒーを購入する女性層。カフェで人気のメニューをRTD(Ready to Drink:蓋を開けてすぐにそのまま飲める飲料)で楽しんでいただける商品にしようという狙いです」
新機軸の商品だけに、開発にあたっては苦労も多かったという。
「まず、コーヒーをゼリーにするための原材料や製法について、食品を扱っているグループ会社であるアサヒグループ食品(株)にヒアリングをしたり、冷たくても溶けるミルクパウダーを探したりと、それまで経験したことのないノウハウが必要でした」

その甲斐あって、ペットボトルの「ワンダ シェイクゼリーコーヒー」は好調なセールスを記録した。缶コーヒーと明らかに異なっていたのが、商品情報の拡散プロセスだ。“味や食感を自分好みに変化させて楽しむ”という面白さが、動画投稿サイトのYouTubeなどで数多く紹介され、若者や女性の間で話題となったのだ。
こうした結果を受けて、万代は確かな手ごたえを感じている。そして、今後の仕事についてこう語る。
「私自身は、“缶コーヒーファン”と“缶コーヒーに興味がない人たち”の間に立って、缶コーヒーの新たな魅力をつくり、伝えていくことが自分の使命だと思っています。まずは若者や女性層に、もっと缶コーヒーに目を向けてもらうことが大切。コーヒーゼリー飲料はその第一歩です。これからも常識にとらわれることなく、果敢に挑戦を続けていきたいと思っています」
(2018年4月5日取材)

万代文子