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【対談企画】理屈抜きで心を動かす「嗜好品」のチカラ

2020.10.01

【対談企画】理屈抜きで心を動かす「嗜好品」のチカラ

身近な存在だからこそ、どこか捉えどころのない「嗜好品」の概念。『孤独のグルメ』の原作者・久住昌之氏は、「嗜好品」をどのように見ているのでしょう?アサヒグループ食品で菓子類・サプリメントを中心に商品開発の指揮をとる、布目肇氏との対談からひも解きます。

話を聞いた人

布目 肇さん

アサヒグループ食品(株)
商品開発二部 部長

布目 肇さん

久住 昌之さん

漫画家・ミュージシャン

久住 昌之さん

なくても生きていけるのに、人間は嗜好品を求める

布目 久住さんとの対談を前に、私にとっての嗜好品とは何なのか、改めて考えてみました。そこで行き着いたのが幼少期の記憶です。例えば、年に数回だけ食べることのできたレストランのプリン。素朴な味わいながら、記憶に焼き付いているんです。忘れられないおいしさの記憶こそが、今の嗜好につながっているのかな、と。


久住 幼少期の記憶ですか。そう考えると嗜好品とは、僕の場合、お駄賃のような存在ですね。家の手伝いをして、そのご褒美として与えられたお菓子は、一段とおいしく感じましたから。それは今でも一緒。仕事終わりに飲んでこそ、お酒はうまい(笑)!


布目  分かります(笑)。「今日も一日、お疲れさま」という気持ちと共に飲むビールは、ひと味違いますよね。


久住 ただね、新型コロナウイルスの流行下に、奇妙な光景を目にしたんですよ。緊急事態宣言を受けて、飲食店が営業時間を短縮したでしょう。そこで閉店間際の居酒屋を観察してみると、みんなが躍起になってお酒を流し込んでいる。こうなると、その人たちにとってのお酒は嗜好品ではない。嗜好品って、栄養摂取以外の目的で味わうものだから。要は、なくても生きていけるもの。それでも人間は、必要不可欠だけじゃ満たされない。今の時世になぞらえれば、マスクがいい例です。


布目 なるほど、確かにそうですね。ウイルスから身を守るためにつけるマスクが、早くも今では色柄豊富。一つのおしゃれになりつつありますね。
久住 人間はどんな状況下でも、嗜好品を求めてしまう。非常に脳が発達した動物ゆえ、楽しみの要素なしには暮らせないんですよ。お酒も、漫画や音楽だって嗜好品。なくても生きていけます。しかし膨大な処理を行う脳をリフレッシュさせるには、やっぱり嗜好品が必要なんです。 

開発者を支える幼少の記憶「あのおいしさを再現したい」

布目 私が開発に携わる商品にも、リフレッシュの側面があります。〈ミンティア〉は仕事中に召し上がる方が多いですし、〈1本満足バー〉に関しては手軽に栄養を補いながら、おいしさも楽しめる点が好評です。皆さん、何かを味わうことで、フル回転の脳をリセットさせたいのかもしれません。


久住 確かにお菓子をつまむと、頭の回転が良くなる気がしますね。まさにリフレッシュだ。お菓子開発においても、重要な観点なんですね。


布目 リフレッシュの要素は非常に重視していますが、同時に大事にしているのが、ついつい食べ進めてしまう素朴なおいしさです。強い目的意識を持たずとも食べられて、食べ始めると止まらない。そうした味わいを突き詰めていくと、やはり幼少期の記憶に行き着く気がするんです。実は〈やみつきホルモン〉という商品も、開発者の幼い頃の記憶から着想を得ています。


久住 なるほど。幼い頃に「おいしい」と感じた味は一生もの。それがその人の味覚の核ですからね。個性の原点です。オリジナリティのある開発には重要だと思います。
布目 開発を進めるうえでも、とても大きな支えになりますね。その気持ちがあればこそ、楽しみながら開発に取り組めますし、より熱意が湧いてきます。

おいしさも景色への感動も、心の動きは数値化できない

久住 開発者自身が楽しむ。これは絶対に大事。お酒を例にしても、同じ水割りのはずが、つくるバーテンダーが違うと全く別の味になるんですよ。何が違いを生み出しているかというと、まさに熱意なのかもしれない。つくり手自身が楽しんでいると、そこに熱意が生じますからね。


布目 開発者として、改めて肝に銘じるべきことですね。実はこんなにも科学が進歩し、機械化が進んだ現代でも、味を数値化することって、すごく難しいんです。数値化できないからこそ、開発者たちは自分が感じるおいしさを信じ、形にしなければいけません。


久住 「おいしい」や「好き」という感情は、数字で計れません。自動ドアからエレベーターまでデジタル制御の世の中だけど、人の気分まではコンピュータ任せにはできませんよね。


布目 その通りですね。機械は人間の心を制御できません。


久住 以前、山道を一人旅していたとき、きつい峠を越えた瞬間、海が見えたんです。「わぁ!」と思って、体に元気が湧くのを実感しました。この元気はどこから来たんだろう、と。こうした心や体の反応は理屈じゃないんです。


布目 その感覚は、おいしいものを食べたときと重なりますね。単に空腹が満たされるだけでなく、しみじみと味わい深く、心も満たされるような。


久住 そう。肉体だけでなく心も満たすものが、嗜好品。「しみじみ」って、それを表すいい言葉ですね。

撮影場所


【店舗情報】
喜美松(きみまつ)
東京都台東区浅草4-38-2

【紹介者】
アサヒビール(株)東京統括支社 吾妻橋支店
中村 大志さん

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